なぜ離陸は手動なのか？　現役機長が解説！

こんな疑問はないでしょうか？

旅客機の巡航や着陸は、自動操縦システム（Auto Pilot）によってかなりの精度で制御されます。しかし、離陸は他のフェーズよりも複雑であり、即座の判断が求められるため、パイロットの直接的な操作が必要になります。

離陸時の判断には以下のような要素が影響します：

• 機体の重量と燃料搭載量
  フライトごとに異なるため、離陸速度や推力を細かく調整する必要があります。
• 気象条件
  風の向きや強さ、ウインドシア（突風）、視界の状況などは常に変化し、予測が困難です。
• 滑走路周辺の航空機の動き
  滑走路には離陸・着陸を行う多くの航空機が存在し、タイミングを見極めながら安全に離陸する必要があります。
• 機材トラブルへの対応
  離陸時にエンジントラブルや操縦系統の異常が発生する可能性があり、即座に離陸を中断する判断が求められます。

技術的には可能だが、実用化されない理由

実際には、旅客機のスペック上、自動離陸は技術的に可能です。例えば、エアバスの「ATTOL」プロジェクトでは、画像認識技術を活用した自動離陸の試験に成功しています。しかし、実際に商業運航で導入されるには、以下の課題があります：

1. 安全性の確保
   離陸の成功は「滑走開始」だけでなく、「離陸継続の判断」も含まれます。外的要因（風、他機の動き）や機材故障が発生した際、システムが即座に的確な判断をすることが求められます。現在の技術では完全な安全性を保証するのは難しいため、パイロットの判断が優先されます。
2. 法規制と運用ルール
   航空会社ごとに運航マニュアルが定められており、「一定の高度または時間に達するまでは手動で操作しなければならない」というルールが存在します。これは安全確保のための業界標準であり、技術が進んでも簡単には変更できません。
3. 乗客の信頼
   旅客機の運航は乗客の安心感も重要です。完全自動離陸が導入されたとしても、万が一のトラブル時にパイロットが介入できないという懸念が残るため、人の判断がある方が乗客の安心につながります。

今後の展望

自動操縦技術は急速に発展しており、エアバスやボーイングなどのメーカーがさらなる研究を進めています。将来的には、離陸も高度なセンサー技術やAIを活用し、より安全に自動化される可能性があります。しかし、現段階では人間の判断が不可欠であり、パイロットが直接操縦するという運用が続くでしょう。

飛行機の自動化が進む中でも、離陸だけは「最後の砦」としてパイロットの経験と判断が重要視される場面なのです。技術革新が進むなかで、今後どのような変化があるのか注目していきたいですね。